JBL で Bach を...

JBL4343のマルチシステムの話題を中心に

低音ドライバーのニアフィールド特性

 Wooferの2231AとMid Bassの2121のニアフィールド特性を取ってみた。マイクを5mmくらいまでスピーカーに近接させて取るので反射波や定在波の影響が少なく、マイクから見ると無限大バッフルに近い特性になる。なのでほぼドライバーの性能がそのまま見えてくるとみていいかもしれない。

f:id:hemulnm:20201217181611j:plain

2231A near field response

オリジナルのクロスオーバーの3143のカットオフが255Hzだが、カットオフ付近でのMagnitude はまぁ平坦で、位相もマイナス数十度くらいでまぁまぁ安定している。ニアフィールドでの測定限界は360Hz付近だ。

f:id:hemulnm:20201217182446j:plain

2121 near field response

 2121のレスポンスも安定しており、オリジナルのクロスオーバーの3143のカットオフが410Hzだが、この付近では平坦で、位相回転も少ない。ニアフィールドでの測定限界は550Hz付近だ。

 オリジナルのように250~400Hz付近でクロスオーバーするのは、2つのドライバー側が非常に安定しているため、有利であることがわかった。オリジナルのクロスオーバーのLF側のハイカットとMF側のローカットの周波数が、それぞれ250Hzと410Hzと間を開けていること、およびζの肩特性がイカリ肩特性になってることについて、なにか理由があるのかどうかよくわからないが、このくらい安定していれば、通常のLinkwitz-Rileyクロスオーバーを使用すれば全く問題ない特性が得られるといえる。

低音域特性の測定

  ARTAでインパルス応答に時間ゲートをかけて反射音を取り除くという手法が低音域の測定ではできないので、低音域の測定にはNear field測定を行なう。マイクをスピーカーに接近させて反射音や定在波の影響を受けにくくして測定する。4343の場合、低域はポートが2つと低域ドライバーの2231Aがあるので、この合計3個の測定値を複素加算したものがトータルの特性になるとのことだ。加算はSpeaker Workshopの加算機能を使う。まずポートLとポートRを加算(Conbine)し、その結果と2231Aのデータを加算(Merge)する。Mergeするにはポート面積とスピーカー有効面積を重み付けして加算するようになっている。ポート面積は2つあるので2倍する。

f:id:hemulnm:20201215181851j:plain

f:id:hemulnm:20201215185710j:plain

f:id:hemulnm:20201215185740j:plain

2231Aドライバーとポートレスポンスをマージした結果

 その結果、25Hzくらいがバスレフによって増強されていることがわかった。その一方ポートレスポンスのほうが、85Hzくらいにディップがあり、トータルレスポンスに影響しているようだ。


JBL4343ミッドバス逆相問題

  ネットでよく見るJBL4343の記事によると、JBL4343がうまく鳴っているのを聴いたことがない、とかミッドバスのつながりが良くないとか、かつてオーディオブームだったころの人気商品だっただけに、いち4343ユーザーとしてなにか心苦しい思いだ。自分はマルチアンプ構成なので逆相問題は関係ないのだけれど、4343の商品としてのクォリティどうよ、というのが気になる。

 なので真相はいったいどうなのか、ちょっと見てみようかという気になった。

f:id:hemulnm:20201210173034j:plain

JBL 3143 

クロスオーバーのJBL3143のLFとMFの部分の図だが、LFとMFのクロスオーバーは、320Hz くらいの周波数でクロスしLPF、HPFはともに2次のフィルターで構成されている。なのでそのまま電圧加算すると逆相になりディップを生じる。LTspiceでシミュレーションすると、

f:id:hemulnm:20201210174143j:plain

 ここでミッドバス2121の極性を逆にすると

f:id:hemulnm:20201210174303j:plain

となり、まともになった。リップルがかなり出ているが、意図的かどうかはわからないが、ダンピングレシオζがかなり低い設定なのでかなりのイカリ肩特性になるためだ。

 実際の音は、スピーカーを通るのでスピーカー自体の特性が加味されるため位相もシフトしてくるが、2231Aも2121もこのあたりのクロスオーバー領域ではフラットな特性であり、位相も0°付近にとどまるため、上の単純な電圧加算の結果から大きく乖離することはないだろう。

 しかし、こんなに盛大にディップが出ていたら誰が聴いてもおかしいと思うのは明らかだ。もしこれで我慢して聴いている方がいたら極性を変えていただきたい。ただミッドバスのみを反転すると、HFの2420とのつながりが不整合になってしまうので、External Crossoverモードにして一緒にまとめて反転するのがいいかもしれない。

 

位相(phase)と極性(polarity)

 歌手がマイクに向かって歌を吹き込み、音を調整し録音してCDを制作するとする。家庭ではそのCDをプレーヤーにかけてアンプを経てスピーカーから音が出てくるとする。このとき歌手が「ふっ」と発声した息がマイクのダイヤフラムを押し込む方向に動いたとすると、CDを聴いている家庭のスピーカーのコーン紙は「ふっ」と前に出てこなくてはならない。つまりマイクから末端のスピーカーに至るまでどの途中の機器でも極性反転がないことが決まりだ。金田式パワーアンプのように反転アンプを作るのはよいが、わかった上で使ってないと最終的にどこで反転しているか頭をひねることになる。

 アナログネットワークの世界では、いわゆる「逆相接続」がよくおこなわれる。フィルターを合成するとフィルターの次数によっては、クロスオーバー周波数で位相が180°シフトすることがある。これを補償するためにスピーカーのプラスとマイナスの端子を入れ替えて接続する。これを称して「逆相接続」と呼ぶことがある。しかし位相(phase)は回ったりシフトはするが、「接続」はしない。この場合、反転する(invert)のは極性(polarity)だ。「180°回転した位相を補償するために極性を反転して接続する」という意味だ。「逆相接続」という言葉は誤解を生みそうな呼び方だ。言うのなら、逆極性接続とかなら話はわかる。

 JBL4343についていえば、ミッドバスは逆相だとか、いやもともと赤と黒が入れ替わっているとか、いやそれも意図的に逆にしているのだとか、いろいろネットで話題になった。この頃の米国の品質レベルから考えてプラスとマイナスが入れ替わっているなど、まぁありうる話だ。この頃製造されたJBLの中を開けてみれば、当時の品質がいかにヒドイかわかるだろう。結局、自分でどちらが正しい極性かを見極めて使うのが正解である。

 極性(polarity)の判定によく使うのがのこぎり波だ。正弦波や三角波のような波形では正極性も逆極性も同じに見えるが、上りスロープののこぎり波が逆極性になると下りスロープになるのですぐに分かる。

f:id:hemulnm:20201125114615j:plain

逆相か、逆極性か

 ネットワークの都合で例えばミッドバスを逆接続した場合、上の例では、歌手が「ふっ」と発音したときにミッドバスのコーン紙だけ引っ込む方向に動くのか?いや低域は帯域制限されているので関係ないはず?クロスオーバー周波数の周辺だけの正弦波だけ考慮しておけばいいのでは?のこぎり波の高調波成分は反転しても変わらないので聴感上関係ないはず?など実のところよくわからない。ただ、波形再現を目指すのなら、逆極性接続では難しいだろう、ということになる。下の絵はデジタルソースに入っている楽器の波形の一部だ。これを極性反転すると。。。

f:id:hemulnm:20201125120225j:plain

楽器の波形を極性反転すると

 

クロスオーバーとリバースヌル

  Linkwitz-Rileyフィルターを使って、低域フィルターと高域フィルターをクロスオーバーさせれば電気的にはフラットな特性が得られるが、音波的にはそうはならない。スピーカーが持つ電気的機械的音響的な伝達関数が間に入るからだ。これを考慮した上でクロスオーバーを設定することになる。例えば高音ユニットの下側のスロープ特性と低音ユニットの上側のスロープ特性が異なれば、低域フィルターと高域フィルターの次数が異なることもありうる。

 ここでは暫定的に無難な選択として4次のLinkwitz-Riley(LR24)クロスオーバーを採用した。 聴感上の評価はもちろん、クロスオーバーの繋がりの評価としてはリバースヌルポイントが出現することでつながっていることを確認する。

f:id:hemulnm:20201123184521j:plain

  リバースヌルは、クロスオーバー周波数で片側の極性を反転して足し合わせるとnullになることから、クロスオーバー周波数での位相が合っていることが確認できる。

f:id:hemulnm:20201123181623j:plain

LR24クロスオーバーでのReverse Null (LT-spiceによる)

 調整は、Phase または、Short delayを増減させながらARTAでFR(Frequency Response)を観測して、ディップが最大になるところを探した。

f:id:hemulnm:20201123185118j:plain

HF+UHF 黒がnormal、オレンジ色がReverse

 ノーマルフェーズで少し盛り上がりがあるので、スロープの最適化をすべきかもしれない。

f:id:hemulnm:20201123185254j:plain

MF+HF

f:id:hemulnm:20201123185326j:plain

LF+MF

  低域ではFar Field測定が困難になる。定在波も大きいようだ。

 

ディレイと位相

 DCX2496では、Short delay(調整範囲:0から4000mm (11.64ms))とPhase(調整範囲:0から180°まで)が設定できるようになっている。

f:id:hemulnm:20201123142049j:plain

Short delay , Phase

 Short delayを使って各ユニットごとに、聴取位置までの距離を音波が伝わる時間差を調整してきた。ではPhaseはどのように設定したらよいのだろうか。スピーカーはアンプから信号が入力されるとボイスコイルを通り電気機械変換されコーン紙を揺らし、機械音響変換されて音波になる。電気入力と音波出力の間に伝達関数が存在することになる。

 クロスオーバーの説明として低域フィルターと高域フィルターの出力を加算するとフラットな特性が得られます、というのがよくあるが、電気的に加算すればそうであっても、高域低域のスピーカーからの音波が合成されたときに特性がフラットかどうかはわからない。これはユニットごとの伝達関数が存在し、周波数に依存する音圧と位相を変化させているからだ。つまりクロスオーバーの設計で意図したスロープはユニットの持つスロープの影響を受けるし、位相もシフトするのでクロスオーバー周波数では、意図したようにはうまく音が繋がらない。よって必要に応じてシフトしてしまった位相を補償することが必要になる。

 実際の調整としては、ディレイも位相角も同じ次元を持ち、測定値としては区別がつかないのでどちらで調整すべきか迷うことになる。セオリーとしてはディレイをぴったり合わせてから位相を補償することになるが、どちらで調整しても同じ結果になるのではないかと疑問になる。実際にインパルス応答を見てみる。

f:id:hemulnm:20201123151125j:plain

ディレイでは完全に平行移動になる。

f:id:hemulnm:20201123151242j:plain

 Phaseでも同様にシフトされているが、頭では過渡応答が生じる。これはAll-pass filterを使っているためと思われる。

 また、Phaseでは分解能にも注意が必要だ。Phaseは0°から180°まで5°おきに調整でき、調整周波数はそのバンドの高域側のカットオフ周波数になる。例えば上の例ではfc=1.14kHzなので分解能の5°は12.2μsになる。fc=300Hzでは46μsと分解能は荒くなるがディレイの分解能は周波数では変わらない。

 

※後になってUCA202の極性反転が判明したため、波形は上下逆になっています。

 

 

タイムアライメントのための到達時間測定

  ARTAのImpulse response計測の機能でそれぞれのユニットから聴取位置までの到達時間を計測する。インパルス応答といっても昔のようにパルス波形を発生させる方式から、現在ではピンクノイズやスイープ(チャープ)波形などを発生させ、計測信号を取り込んだのち演算にて伝達関数を割り出す方式が主流である。さらに時間ドメインに変換し、インパルスレスポンスがどのような形かを類推し下のような時間波形をわり出すことが可能だ。インパルス波形をスピーカーで鳴らしても音のエネルギーが足りないので観測が難しかったがARTAではピンクノイズを発生させて簡単に見ることができる。

 これは、2420(ドライバー)と2405(ツイーター)のインパルス応答の例で、その時間差はGate時間の0.646ms(=223mm)になっているのでこれを利用してDCX2496のShort Delayを設定すればよい。

f:id:hemulnm:20201122184347p:plain

2420 と2405のインパルス応答

 これを繰り返してさらに精密に合わせ込むこともできるが、このあと位相補償をおこないクロスオーバーでの最適化をするので、ここではラフに合わせておくとよい。

 4343の場合、ダイアフラムの位置が一番奥まっているのが2420なので、設定するディレイ量は、2420が一番小さい。他のユニットは、20cm前後のディレイ量を設定すると2420の波面と合ってくることになる。