タイムアライメント
4343は設計的にタイムアライメントが考慮されていないので横から見ると、図のように各ユニットのダイアフラムの位置がまちまちのため、聴取位置からの距離に差が出てしまう。例えば、2420と2121をクロスオーバーしようとすると、d2,d3の距離の違いによる聴取位置での音の到達時間がずれてくるため、
クロスオーバー周波数で位相がシフトしてしまう。そのためクロスオーバーがうまくつながらなくなりピークやディップが生じてしまう。音質上もユニット間のつながりに違和感があったり、ソースに入っている音場感の再現性が悪くなったりすることも考えられる。この時間的ズレを解消するためには、d1~d4が等しくなるようユニットを一度バラバラにして物理的位置を調整することになる。従来マルチアンプシステムでは、ユニットバラバラが主流だと思う。もうひとつの時間差を解消するやり方としてはDCX2496などのデジタルプロセッサーのディレイ機能を使って合わせ込む方法だ。DCX2496のコントロール画面でShort delayを2mmの分解能で各出力に設定可能だ。
画面上、スピーカーの位置関係を考えればアイコンの向きは逆(右向き)のほうがわかりやすいと思うのだが。。。
音響測定系
昔は音響測定などしないで、自分の耳だけを頼りにマルチアンプシステムを組み上げたツワモノがいたようだ。はっきり言って音響測定手段とデジタルプロセッサーを使わずにマルチアンプシステムを組み上げるのは「不可能です」と言いたい。マルチアンプシステムに挑戦し、苦労しながら虚しく敗北していった先人たちのなんと多いことでしょう。超人的な聴覚を持ち、自分の耳が満足すればいいのだ、という論理はまぁいいとして、常人ならば調整の迷宮に迷い込むことは必至だ。困難とされていたマルチアンプシステムが、現在では手の届くところまで来ていると思われる。その要因としては、まず優秀で使いやすいARTAのような音響計測ソフトウェアが入手できること。もう一つの要因としては、DCX2496などのデジタルプロセッサーが入手可能なことだ。クロスオーバーの調整時などに何が起こっているのかをPC上で即座に確認でき、デジタルプロセッサーをPC上からパラメータの調整に即座に反映することができる。
デジタルプロセッサーの最も大きな利点のひとつはデジタルディレーによるタイムアライメント調整にあると思う。今では常識となったタイムアライメントだが、昔はあまり重要視されていなかったようだ。それこそ4343の時代では、タイムアライメントの考え方はなかったようで、4343のダイヤフラム及びコーンの物理的位置関係はバラバラだ。もちろんマルチスピーカーで各ユニットの物理的位置関係をばらばらにずらしながら合わせ込むことは可能かもしれないが、DCX2496などでは2mmの分解能でリアルタイムにずらすことができる。
測定系を紹介しよう。
測定用としてオーディオインターフェースは、UCA202を採用した。これは安価で光デジタル出力がついているからだ。PCで発振したテスト信号はUSB経由で入力される。再生されたテストトーンはマイク、マイクアンプを経てUCA202のアナログ入力(L)に戻る。ARTAが推奨するDual Channel Modeに対応するため、DCX2496の空きチャンネルからリファレンス信号としてアナログ入力(R)に戻した。
※ご注意:あとでUCA202が極性反転していることが発覚しました。
パワーアンプとスピーカーケーブル
LF(低域)、MF(中域)、HF(高域)の各チャンネルにAccuphase P-300Xをそれぞれ使用する。P-300Xはケンソニック時代の豪快さをまだ継承しているモデルと言われている。パワーアンプはクセの強いJBLユニットを強靭に抑え込まなければならない。そのためには、ネットワークの介在を廃しダイレクトに駆動するパワーが必要だ。ただP-300Xは製造されてから数十年経っているので、あちこち劣化していた。大型以外の電解コンデンサーは全交換した。また、パワートランジスタの放熱シリコーンペーストをやり直し、SPリレーも分解掃除または交換した。
UHF(超高域)チャンネルには金田式パワーアンプを採用した。このアンプは、もともとプリアンプとパワーアンプの組み合わせで設計されたもので、プリもパワーも反転アンプでプリとパワーを合わせて使用することで2回反転して非反転となる。そのためパワーアンプだけ使うと反転してしまうので注意が必要だ。
スピーカーケーブルは、低域用はカナレの4S8、その他は4S6を使用する。カナレの4S6、4S8は業界の超定番のスピーカーケーブルで絶大な信頼感がある。この信頼感という感覚は重要だ。よくスピーカーケーブルで音が変わってしまうということがあるが、スピーカーケーブルとネットワークさらにスピーカーユニットの全部のインピーダンスが総合的に関わってくるので、特にここでもネットワークの弊害が大きく作用する。なるべくスピーカーはアンプからダイレクトに駆動したいところだ。
JBL4343スピーカー端子をマルチ用に改造
バランス入力8チャンネル連動マスターボリュームユニット
DCX2496の出力は8チャンネルボリュームユニットに入る。マルチアンプの場合8チャンネルのバランスを保ちながら、全体のボリュームを調整するのがどうしても必要になってくる。これをデジタルドメインでやるとなるとビット落ちして精度が落ちるので、音質も落ちる。このため、アナログドメインでのマスターボリュームが必要になる。しかし、8連ボリュームというものがこの世では入手できないので、作るしかないということになる。
DCX2496からのバランスアナログ信号を受け、電子ボリュームで音量を調節し、アンバランスで出力する。
電子ボリュームチップはMUSES72320を使用、秋月電子の電子ボリュームキットを4枚使用し、ひとつのロータリーエンコーダー(光学式)で連動できるように改造した。(付属のロータリースイッチはチャッターが多くて使えなかった。)電源付きシャーシは共立エレショップ製。
DCX2496の接続
DCX2496にはデジタルのAES/EBUで入力するのがおすすめだ。デジタル入力なら内蔵のADCを経由せず、入力をそのままデジタル信号処理に移行できる。アナログの場合は、プロ用なので基準レベルが+4dBuの差動(バランス)入力のため、CDプレーヤーなどのオーディオ機器はバランスではなくレベルもかなり低いのでそのまま繋ぐことができない。私が使っているDENONのDCD-SA11はバランス出力を持っているのだが、レベルは低いし極性は逆だし、使い物にならないので注意が必要だ。レベルだけならば、DCX2496は各アナログINPUT A,B,Cについては+15dBまでゲインを持たせることができるが、おそらくデジタルドメインで増幅していると思われるので、ノイズも増幅されてしまう。よくDCX2496はSNが悪いなどという評があるようだが、AKMの24-bitのADC、DACを使い112dBのD-レンジを謳っており実用上もノイズが多いなと思ったことは一度もない。ノイズが多いというのは、例えばオーディオレベルの低い信号をそのまま入力するなど、間違った使い方をしている場合が多いものと思われる。
現在はディスコンになってしまっているSRC2496という機器があったが、これはオーディオレベル入力(RCA-pin)、SPDIF入力、AES/EBU出力などを持っていて、これがあれば何の苦もなく接続できたのだが、今は残念ながら入手できないようだ。
DCX2496の出力側はアナログバランス出力が6チャンネル出ている。これもまた、オーディオ用パワーアンプにそのまま繋げると入力過多となりアンプの入力ボリュームを最小に絞り込むことになる。簡易的にはXLR型のアッテネーター(Pad)を使う手もある。もちろんプロ用のパワーアンプを採用すれば問題ない。
2台のDCX2496で合計12チャンネルの出力になるが、現在はAのような接続になっている。本来ならばBのように接続するのが通常なのだが、最初は1台で使っていて、あとからもう1台を追加したのでAのようになってしまった。BのメリットはPCからのコントロールをする場合、2台目にLINKで受け渡すことができるようになることだ。つまりLチャンネルの設定とリンクしてRチャンネルを動かすことができるようになる。しかし今更Bに繋ぎ変え、設定もし直すのも面倒なのでAのままで使っている。
音源の入力系
PC上の音源が再生され、SPDIF同軸から出力される。これをそのままAES/EBUに変換してDCX2496に入力してもいいのだが、ここはSPDIF同軸 → SPDIF光 → AES/EBUとした。間を光ファイバーとすることでPC系の電源とオーディオ系の電源をアイソレートし、グランドループを作らないよう配慮した。しかしジッターの大きさはSPDIF同軸よりも光のほうが断然大きいので、つなぎ先でジッターにセンシティブな機器を使う場合はSPDIF同軸のほうがいい。この場合はDCX2496でリクロックされるので、ジッターよりも電源系のアイソレーションの方を優先とした。
SPDIF光はPLR133で受け、RS422の差動ラインドライバーAM26LS31で後段に送り出せばいい。長距離伝送やアイソレーションが必要な場合はパルストランスをかませるとよい。伝送ケーブルは通常はカナレの110Ωの青いデジタルケーブルを使う。短距離ならばマイクケーブルでも大抵問題ない。
JBLでマルチアンプ?
JBLならJazz、TANNOYならクラシック、というのがオーディオの世界ではあたりまえ。しかしJazzもクラシックも両方聴くけどJBLとTANNOYと両方揃えるわけにはいかない。このクセが強いJBLをなんとかてなずけてゆきたい。
そもそもJBL4343は"STUDIO MONITOR"と称するスピーカーだ。音楽スタジオでのモニター用なので、エフェクトなどかけた音を聴きながら調整するときに使うもので、聴きたい音を鮮明にゴリゴリ前に出して調整しやすくする。なので家庭のリラックスした環境でいい音楽を聴くものでは、決してない。
最近は音楽制作の環境もだいぶ変わってきているので、こんなスピーカーを使っているスタジオももうないのでは。この4343を入手したのもかれこれ40年も前の話、たまたまスタジオ払い下げが格安で入手できたのがきっかけだった。
なので、エッジやダイアフラムが劣化していたのは修復したが、内蔵のネットワークの3143はロータリースイッチの接点や素子の劣化は如何ともし難く、ならば様々なメリットが期待できるマルチアンプ化に踏み切ったというわけ。
現状のシステムを紹介しよう。
まず、音源はPCでのネット音源も含めデジタルソースがメインになる。古い音源でも最近はデジタル音源で聴けるので、LPレコードなどのアナログソースは、プライオリティを下げた。聴きたくなった場合はDCX2496のアナログ入力につなげば良い。
デジタル音源はデジタルのままDCX2496に入力する。アナログで入力すると内蔵のADCを使うことになる。なるべくAD/DA変換の回数を減らしたい。CDプレーヤーからも光ファイバーでの入力とした。光デジタルからAES/EBUに変換し2台のDCX2496への入力とする。変換器は自作した。
BEHRINGER DCX2496は1台で6チャンネルの処理ができるので、4ウェイステレオの8チャンネルには2台必要だ。余った残りの4チャンネルは、独立のモニター系や測定用に使用できる。
DCX2496の出力はバランス(平衡)でしかもプロ用の基準レベル(+4dBu)で出ているので、プロ用のパワーアンプを使うか、もしくはオーディオ用アンプを使うなら、オーディオの基準レベルにまで約12dBほど落とさなければならない。
ここではバランス・アンバラ変換と8チャンネルマスターボリュームを兼ねてオーディオレベルが出力できるものを自作した。これの出力がそれぞれJBLの呼び方で言うLF(低域)、MF(中域)、HF(高域)、UHF(超高域)の4ウェイステレオの8チャンネルである。これらを4台のパワーアンプにいれて増幅し、4343の各ユニットをそれぞれドライブする。