JBL で Bach を...

JBL4343のマルチシステムの話題を中心に

ピタゴラス音律

 アップライトピアノの弦は低音用としては一つの音に対して1本の弦が割り当てられていて、一つのキーを叩くと1本の弦が振動して音が出る。中音は一つのキーにたいして2本、高音は3本の弦が張られている。2本の弦の場合、2本の弦からの音が同じ周波数となるようチューニングピンを回してテンションを調整する。これら2本の弦からの音の周波数がピッタリと一致するように合わせ込むことをユニゾン調整という。これらの周波数がズレていると周波数の差の周波数で「うなり」を生じ、いわゆるホンキートンク的なサウンドになる。このユニゾンでの周波数のズレはごく少量であれば意図的にずらすこともあるようだが、限度を超えてズレると不快な音になる。

 基本的にはこのようにピッタリ合った音を人間は生理的に美しいと感じるので、音楽としては有用なサウンドになるというわけだ。ユニゾンの場合は同じ周波数(ピッチ)だが、異なる周波数ではどうなるかというと、弦楽器のように倍音(高調波成分、Harmonics)を持つ場合は2つのピッチの整数倍の倍音が協調すれば、美しいハーモニーだと感じることになる。

 例えばC(ド)とその上のG(ソ)は音楽で言うところの5度離れているが、周波数としてはCの3/2倍の周波数がGの周波数になる。Cの持つ3倍音とGの持つ2倍音が同じ周波数で協調すればピッタリ合った美しい音と感じられるというわけだ。

 ピタゴラスはこの5度音程を拡張してゆくと1オクターブを構成する12音を定義づけることができることを見出した。例えば、基準となる音をAとすると、Aの5度上のE、Eの5度上のB、とこのようにしてどんどん上へ積み上げてゆくと、オクターブを構成する12音をすべて網羅した後、12回めには、A→E→B→F#→Db→Ab→Eb→Bb→F→C→G→D→A

とAに戻ってくるが、最初のAに対して7オクターブ上のAになっている。これは音楽をやっている人ならご存知の5度圏という円周を一周して戻ってくると考えれば良い。

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ここから出てきた12音を適度にオクターブでスケーリング(2倍、1/2倍)すれば1オクターブ内に収めることができる。こうしてできた12音階だが、理論的にもシンプルで美しく、当時は神の音楽を奏でるのにふさわしい音階だと思われていたのだろうか。だが、このように5度で構成した音階は、オクターブ(8度)にきちんと収まらないという問題がある。例えばA0(fA0=27.5Hzとして)から出発して5度を12回積み上げたA7は

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となるが、A0の7オクターブ上のA7は

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となって残念ながらピッタリ合わない。これを無理やり合わそうとするとどこかにしわ寄せが起きて間隔が狭い5度ができてしまう。このしわ寄せを数値的に表したものがピタゴラスコンマと呼ばれ、2つの異なった周波数の比で表される。

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この狭い5度は、聞き苦しい濁った5度になり、ウルフ(wolf:狼)5度と呼ばれ、音楽的ではない。このため、これを改良すべくピタゴラスコンマを平均化して振り分けるなどの工夫をして後に様々な音律が考案された。