JBL で Bach を...

JBL4343のマルチシステムの話題を中心に

シントニックコンマ

 ピタゴラス音律で生じた「しわ寄せ」であるピタゴラスコンマだが、これをなんとか12の音階に平均化して振り分けたのが平均律だった。これにより12音が1オクターブ内にめでたく収まった。しかし、ピタゴラス音律での一番の優位点だった純正の完全5度

(¢702)が平均律では(¢700)となって完全な純正さというものが失われた。平均律ピタゴラスコンマによる不純度を均一化し、少し聴いただけでは気が付かない程度に妥協したものとみることができる。

 現代、平均律が普及したにも関わらず、バロック音楽を中心に古典音律が根強く好まれるのは、古典音律のもつ澄んだ和音の響きが求められるからだろう。24の調性を均等に使わない音楽だけを演奏するのであれば、めったに使わない調性にピタゴラスコンマのしわ寄せを追いやってしまう、というやり方も古くは行われてきた。5度圏で隣り合う3つの調、例えばF、C、Gでハ長調の主要3和音のファラド、ドミソ、ソシレができる。ハ長調から属調下属調に転調してBbやDに拡張したとしても、#やbがたくさん付く調には縁がないのでここにしわ寄せを追いやってしまう考え方だ。例えばミーントーンは、ハ長調付近の純正長3度を重視し、生じた大きなしわ寄せを5度圏の反対側に押しやった。これでも演奏する曲を選べば純正な澄んだ響きが得られただろう。

 純正の長3度は例えばドとミではドの5倍音(第5高調波)とミの4倍音が協調すれば濁りのない澄んだ響きになる。ところがこれまた残念なことにピタゴラス音律ではドから5度上を4回繰り返して出てきたミの音はドの5倍音とはズレている。ピタゴラス音律で2オクターブ上のミで

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純正長3度はドの5/4倍のミの2オクターブ上で

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となり、81:80=1.0125異なる。この違いをシントニックコンマ(syntonic comma)と呼ぶ。ピタゴラス音律でのEはセント値で

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純正長3度は

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となり、シントニックコンマの¢21.506の差がある。5度では純正だったピタゴラス音律だが、3度ではかなりの唸りを生じてしまう。